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ちゆう工房
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               ウサギとカメのかけくらべ (A tortoise and a hare ramp walking race)


トコトコ人形(ramp walker)の「ウサギ」と「カメ」が坂を上り、下りして競争をします。

なぜ?
どんなしくみで、「ウサギ」や「カメ」が坂を上り、下りていくのだろうう。

    

しくみ

トコトコ人形は下り坂を前後あるいは左右に体を揺らしながら、足を踏み出して歩いていくおもちゃですが、「うさぎとかめの話」にならって、「ウサギ」と「カメ」が坂を上り、そして坂を下って競走します。
坂道を上るには人形を揺らす必要があり、直接触れて揺らす、磁石を使って非接触で揺らす、坂道のほうを揺らすなどが考えられますが、ここでは坂道を揺らすことにしました。

(1)「ウサギ」
「ウサギ」は歩き方から進む方向の前後に体を揺らすタイプとし、「ウサギ」用の上り坂はレバーの軸に付けた、てこの前後の振れで、前後にスライドします。本来、上り坂の揺れは進む方向に波のように揺らす形がいいのですが、仕掛けがちょっと面倒になるのでスライド方式にしました。「ウサギ」の固有振動数と合うように、ちょっと速く等速でレバーを叩くと共振してよく揺れるのですが、叩き方によっては揺れが乱れます。
前後に揺れるタイプの人形では胴と一体の前脚の後ろ側に軸を介して動く後脚を付けたものが一般的ですが、上り坂で揺らしても後脚が着地したまま、浮いている胴が揺れるだけで前に進みません。

そこで、ここでの「ウサギ」は胴の下(前脚から尾)を円弧状にし、後脚は足裏をほぼ同じ円弧にして胴に軸支しています。
これを上り坂に乗せて、坂を揺らしてみました。
①胴が前傾方向に揺れると、後脚の足先が接地し、支点となって、胴は前に倒れてずれます(この分前に進む)。
②揺れ戻って胴が後傾すると、胴が接地し、そこを支点として後脚が浮き、前に振り出されます。
この①~②の動きを繰り返して、坂を上っていきます。
ただ、上り坂の分、足が浮いた時の振り出し量が減る、後部を重くして後ろへの傾きを大きくしないと後脚が揺れた時に接地しにくい、後脚の接地が軸の前になり胴が後ろにずり下がることなどが起こります。そこで、脚を大きく「くの字」形にし、後ろに加重したところ振り出し量も増え、姿勢が崩れることはなくなりました。
しかし、このまま下り坂に乗せると足のつま先が接地して掛かり、止まってしまいます。
前を重くすると歩き出すので、後ろに加重したため、重心と支点とのバランスが悪くなったものと思われます。上りも下りもうまくいく重心の位置にすればよいのですが、分かりにくいので、ここでは、胴の中のトンネル状の穴に鉄球を入れ、上り坂で後ろに、下り坂で前に移動するようにして、坂の向きで重心の位置が変わるようにしました。

坂の上で「ウサギ」を止めるのは坂道の下につけた磁石と「ウサギ」の胴の前脚側に入れてある細い鉄棒によります。
レバーを少し強く叩くと、[ウサギ」は動き出します。

(2)「カメ」
「カメ」は歩き方から左右に体を揺らすタイプにしました。「カメ」用の上り坂はレバーの軸に付けた左右のてこの上下の動きで、左右に上下に揺れます。
「カメ」は4本足で「ウサギ」に比べ倒れることもなく、安定しています。前脚と後脚はそれぞれ自由に前後に揺れるよう胴に軸支し、また、足裏は前後、左右の揺れに対応するよう球面状にしています。
この「カメ」を上り坂に乗せて坂を揺らしてみました。
①揺れて上がった側の前脚と後脚は浮き、自重で前へ振り出される(この分前へ進む)。
②揺れ戻り、振り出された前後の脚が下がって着地し、さらに少し揺れて反対側が上がる。
この①~③の動きを繰り返して、坂を上っていきます。
これも上り坂では脚の振り出し量が減るので、足のかかと側を少し重くなるようにしました。ただ、坂の揺れ幅が少し小さいので、振り出しも小さく、上る時の「カメ」の歩幅はわずかで、遅くなっています。また、下り坂では脚の振り出しが大きくなるので、歩幅が大きく、速くなります。

全体を通して、このおもちゃを実際に作る時に留意したことを挙げてみます。
例えば「ウサギ」では胴のカーブに対する足裏のカーブの出具合、足の軸の位置などのちょっとした違いで動きが変わるため、試行錯誤による微妙な調整が欠かせません。
また、坂道と足裏や胴のスリップも問題です。基本的には粗面で滑らない方がいいのですが、少し滑った方がスムースに動くこともあり、これも調整が必要です。荒い研磨紙でこすったり、液体ゴムを薄く塗ったりしています。
人形がまっすぐ進まないのも気になります。まっすぐに進むには坂道や脚や胴などの底面が水平で、凹凸がない、脚は左右対称で傾きがない、軸のブレがないなど加工をきちっと正確にすることですが、これ等が複合し、また木という天然素材によるムラもあるので、どうしても曲がることがあります。
また、坂道にガードを付けて、曲がりを修正することがありますが、足の形や前脚と後ろ脚の位置の関係でガードにつかえて、かえって止まってしまうこともあります。ちなみに「ウサギ」ではこれを防ぐために前脚を付けています。

こぼれ話
坂を上らせるのに、最初は坂の下から磁石を動かし、人形を波のように揺らすことを試みましたが、吸着力や磁力のコントロールが難しく
、坂を揺らす方法に変えました。
磁石の利用はうまくいけばこの方がすっきりと確実に坂を上ることが出来、また非接触で見えないこともあり、面白いなと思っています。
「ウサギ」が一休みするところは磁石を使いましたが、居眠りの表現がうまくできていません。

こうした古くからある玩具は今までにも、いくつか作り、工夫を加えたりしています。このトコトコ人形も見た目にはわりとシンプルで、何とかなるだろうと、先人の作品を見たり、動く原理などの解説を参考にして作ってみるのですが、上でもちょっと触れたように細かいことでつまずき、試行錯誤を繰り返すので、思ったより手間ひまがかかります。ただ、こうしたなかで原理の理解が深まったり、新しいアイデアが出ることもあるので、楽しみでもあります。

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