「カタカタ人形」おもちゃのカタカタと降りる音がメロディーになるようにしました。
なぜ?
どんなしくみで、「カタカタ音」がメロディーになるのだろう?
また、降りていくもの(人形など)にもどんな工夫がしてあるのだろう? |
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しくみ
「カタカタ人形」(右図)は傾いたボードに左右1対のピン(木棒)が上下に半ピッチずらして
付けてあります。人形の腕をこのピンに掛けると、斜めに滑り、上側の腕がピンから外れる
と、落ちて腕が下のピンに当たり、音が鳴ります。これが繰り返されてジグザグに降りて
いくとき、カタカタと音がするおなじみのおもちゃです。
「メロディーカタカタ」ではピンの木棒はボードの裏側まで貫通して出ています。
腕が表側の棒に当たると、その振動が裏側に出ている棒部分に伝わって振動します。このと
き、表の棒部分やボードも振動しますが、裏側の棒の固有振動音が強く、ホードと共鳴して
鳴り、この音が主に聞こえます。
ピンは左右に1対ずつあり、左側は「きらきら星」(「ABCの歌」)にしてます。右側は「ハッ
ピーバースデイトゥユー」で、始めににちょっと高い音のカタカタ音が入って「ハッピーバ
ースデイトゥユー」が始まります。
降りていく人形は従来のものよりウデの短い、太いT字形(「ウデ短 太T字タイプ」)にし、
これらの曲に合わせ、人形以外の形のものも作っています。
「ウデ短 太T字タイプ」 「ウデ長 細T字タイプ」(従来の形)
1.棒の横振動による固有振動
棒が横振動する時の固有振動数(fn)は
fn=(1/2π)(λn^2/ℓ^2)・√(EI/ρA)
となります。ここに 棒の長さ:ℓ、断面積:A、断面2次モーメント:I、ヤング率:E、密度:ρ
「メロディーカタカタ」の棒はホードで固定され、裏側に出ているので、1端固定で他端自由といういわゆる片持ち梁
のタイプで、このとき、1次モードの振動で λ₁=1.875 となります。
使用した棒はシナの丸棒(直径d)なので、これらの条件を入れて整理すると、棒の1次の固有振動数f₁は
f₁=(1/8π)(λ₁^2)・√(E/ρ)・d/ℓ^2
となります。
このことから、裏側の棒部分について、長いと振動数が小さく、音が低くなり、短いと振動数が大きく、音が高くなり
ます。また、径が大きいと振動数が大きく、音が高くなり、小さいと振動数が小さくなって音が低くなりますが、棒の
長さは2乗で効くので音の高低への影響は大きくなります。そして、棒の太さ(ここではd=8mm)や物性が同じならば
f₁=K/ℓ^2
と表せます。
メロディーにするには曲に合わせて、各棒を調律する必要があります。
この「メロディカタカタ」では棒を裏側にあまり長く出さないこと、低い音は明瞭
でないこともあって、曲の音をC6前後の高い音にオクターブを移高し、移調もして
います。
調律は棒を叩き、耳で聞いたり、周波数分析アプリなどを利用して、ある音、例え
ばド(C6 周波数 f₁=1046.5Hz )の音になる棒の長さ ℓ(m) を調律して知り、K=f₁
・ℓ^2 から係数Kを求めます。他の音については周波数は分かっていますので、そ
の周波数になる棒の長さを ℓ(m)=√(K/f₁) から計算し、それより少し長めに切っ
て、削りながらその音になるように調律します。
棒が短かったり、削りすぎて音が高くなったときは、棒の先端に錘を付けて低くします。
外径8mmのシナの丸棒では、引きばね(外径8mm、線径0.6mm)の1.5巻(約 0.1g)で、半音程度下がりました。
2.降下物の形状
「カタカタ人形」おもちゃの人形は腕を横に伸ばしている「ウデ長 細T字タイプ」が多く、脇の下でピン周りを回っ
て、ジグザグに降りていきます。このタイプでは、ピンによる傾きに沿って滑る距離も大きく、また、回転の中心(脇の下)と人形の重心との距離(L)が小さいため、回転のモーメントM=W・Lsinθも小さくなります。このためボードの傾きもある程度大きくないと、落ちないで止まってしまいます。
これに対し、「ウデ短 太T字タイプ」はウデが短く、胴が太いので、ピンによる傾きに沿って滑る距離も短く、また、回転を起こす力のモーメントが大きいので、滑り回転によって腕がピンから外れやすくなります。これによって、ボードの傾きが小さくても落とすことができます。腕はピンをしっかり叩きますが、跳ね返りが少ないので「ウデ長 細T字タイプ」に比べ、音のビビリもなく、すっきりした音になります。
「ウデ長 細T字タイプ」「ウデ短 太T字タイプ」 「ウデ長 細T字タイプ」 「ウデ短 太T字タイプ」
人形が止まらずに、できるだけゆっくり落ちるときのボードの角度は「ウデ短 太T字タイプ」ではおよそ20度、「ウ
デ長 細T字タイプ」ではおよそ30度でした。ちなみに「カタカタ人形」の勾配はおよそ70~80度で、これに比べれば
かなり緩やかになっています。
3.課題
①音の明瞭さと楽曲への対応
カタカタ音を聞いて、「ハッピーバースデイトゥユー」はちょっと分かりにくいようです。
この原因の一つに音のきれいさがあります。「メロディーカタカタ」のカタカタ音には表側の棒(長さ15mm)の振動、ボ
ードの振動、裏側の棒の振動による音が混じっています。このため調律もしにくくなります。また、同じ音高に調律し
ても、棒の性状や物性の違いで音色が変わることもあります。
また、楽曲の各音の長さへの対応の難しさがあります。「メロディーカタカタ」ではピン間隔(たて列のピンの間隔
50mm、列の間隔 50mm)が一定なので、カタカタ音も一定間隔になり、音の長さの変化が多い曲は使えません。このこ
とから、「ハッピーバースデイトゥユー」は1つの長さの音とその倍の長さの音からなるシンプルな曲に編曲したもの
にしています。
このようなシンプルな曲では、倍の長さの音を短い音を2度続けて叩いたり、休符のように、音のしないピンを入れて
表現することが考えられます。ただ、木棒を使って、ゴムなどの緩衝材を入れてボードに止めても、音は残りますし、
人形が跳ねて動きが不安定になります。素材を変えてプラスチックのストロー等にすればかなり音は抑えられますが、
見栄えも変わってしまいます。
この「メロディーカタカタ」では、長い音を短い音を2度叩くことで対応しています。
人形の降りていく速さが乱れることでも、メロディーが聞き取りにくくなります。これは人形とボードやピンとの摩擦
抵抗の変化によるので、それぞれの接触面を同じように滑らかにするとともに、ろうを塗って調整もしています。また、
ピン間隔をきちっと同じにすることも必要です。
②素材のムラ
「メロディーカタカタ」ではピンの棒(8mm径のシナの丸棒)、ボード(10mm厚、スプルース板材)、人形(18mm厚、ブナ
材)などの木材を使っています。このため金属のように均一なものと違い、理論どおりにはいきません。ピンの棒は既
製品で、径は7.8~8.1mmくらいのばらつきがあり、また、曲がっていたり、棒ごとや部位よっても物性等のムラがあっ
たりします。このことはボードや人形についても言えます。このため、音の調律についても、おおよその長さは計算で
分かりますが、いずれも、現物で確かめていくしかありません。
ちなみに、f₁=K/ℓ^2 の係数Kも実測では K≒4.2 でしたが、文献等からシナの√(E/ρ)を 4.4・10^3 (√(P/(Kg/m^3))
として計算すると K≒4.9 と高めになりました。
③製作上の留意点
ピン棒の径に合わせてボードの穴径を調整し、しっかり止まるようにする必要があります。
また、人形がスムースに降りていくには各ピンの間隔を正確に作ることや、音がしっかり出るように、人形がピンの上
端を叩くように調整することも必要です。
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こぼれ話
古くからの伝承おもちゃはシンプルで、動きのの面白いもの、不思議なものが多く、これまでにもいくつかバリエーシ
ョンを作ってきました。
「カタカタ」人形の落ち方のバリエーションとして、1列ピンで落ちるもので、「はしご下り」のように回りながら落
ちていくN字形のもの、大きく揺れなが落ちていく長T字形のもの、2列ピンで1段おきに落ちるH字形などを試作してい
ます。こうしたなかでカタカタ音がメロディにならないかと思い作り始めました。
「木琴」は木板を両端自由として水平に置き、振動の「節」となるところを軽く支えているので、きれいな、はっきり
した音がします。音板を階段状にして、上から球を落として演奏する階段木琴があります。
この「メロディーカタカタ」のように音板の一端を固定し、他端を自由にして音を奏でるものに「オルゴール」や「カ
リンバ」があります。オルゴールではくし状の歯をシリンダーの突起で、カリンバでは金属などのピンを指で直接弾い
て音を出しています。
「メロディーカタカタ」では表側のピンを叩き、その振動で裏側の棒を振動させています。この方式では叩く側の表側
のピンを一定長にそろえることができること、ピンはしっかり固定されているので、傾けても使えるなどの利点があり
ます。ただ、間接的に振動させているため、ほかの音が混じることもあって、厳密な楽器には向いていませんが、チャ
イムのような音や簡単なメロディーの鳴るおもちゃとしては使えると思っています。
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